☆白昼の悪魔「Evil Under the Sun」
(2001年制作、ブライアン・ファーナム監督、
脚本:アンソニー・ホロヴィッツ、撮影:フレッド・タネス、
音楽:クリストファー・ガニング、原作:アガサ・クリスティー
デビット・スーシェ、ヒュー・フレイザー、フィリップ・ジャクソン、
ポーリン・モラン、ルイーズ・デラメール、マイケル・ヒッグス、
デビット・モーリンソン、マーシャ・フィッツラン、
イアン・トンプソン、キャロライン・ピックルズ)
テレビドラマでは、ジャップ警部、ヘイスティングス、ミス・レモンが
登場する最後の作品となる。(ポワロのカーテンで再結集する)
ポワロはレストランで意識不明になる。肥満がたたり、心臓負担による
体調不良と診断され、ドクターから転地療法を進められ、
ミス・レモンが療養先を選ぶというオープニングで、
お目付け役としてヘイスティングスが同行することになる。
・映画「地中海殺人事件:Evil Under the Sun:82」
では、スペイン、マジョルカ島でロケーションされており、
ポワロ役のピーター・ユスティノフが巨体をゆらせ事件を解決していたが、
テレビドラマ版では、アガサ・クリスティーが小説執筆で
滞在したバー・アイランドで撮影されているとのこと。
原作から人物設定等はかなり変更されているが、ドラマで舞台と
なった滞在するホテルサンディ・コーブ・ホテルへ渡る際の
トラクターがとても興味深かった。
いかにもリゾートと言う雰囲気を醸し出し、ゆっくり・のんびり
進む様子が楽しいし、現実の世界と隔離するという役割を担っていた。
過去におこった強盗殺人事件アリス・コリガン事件も背後に潜んでおり、
鉄壁のアリバイをポワロがどのように崩すかがこの作品の見所となる。
ヘロインの密輸事件も並行して描かれ、殺人事件の解決の障害に
なってくるあたりは、いくつかの事件を同時に描くことにより、
事件の複雑さを強調するアガサ・クリスティらしい手法である。
ブラットが実はヘロイン密輸の張本人だったり、ヘロインの密輸事件を
追っている捜査官が宿泊客に紛れ込んでいたり、不徳を断罪する
牧師がいたりと殺人事件の犯人とは関係ない人物を描き、
犯人を絞らせな演出で、なかなか手の込んだ作品となっている。
自由奔放でスキャンダラスな女優アレーナは旧知の
パトリック・レッドファーんと偶然出会ったように島で合流する。
周りからも煙たがられるような蜜月ぶりで、ポワロは
不穏な雰囲気を感じるというオープニングから、巧妙なトリックで
アレーナを殺すまで、とても良く出来た作品となっている。
アレーナの不倫の相手レッド・ファーンと妻クリスティーンが、
犯人なのだが、島の滞在者を巧妙にアリバイに巻き込むあたりは、
ミステリーの醍醐味を感じさせてくれる演出となっている。
そして、過去のアリス・コリガン殺害事件もこの2人による
殺人だったことが明るみに出る。
一見、犯人とは思えないような人物が犯人だったというのは、
クリスティーのミステリーではよくあるパターンだが、アリバイが
鉄壁なだけに、それを解決するポワロの“灰色の脳細胞”がフル活動し、
どのように見破るかが見どころとなるのだが、ジャップ警部も
島に駆けつけ、ミス・レモンも過去の事件を捜索するという
ポワロ一家総出で事件解決にあたっている。
4人がともに事件解決に活躍するのは、この作品で一旦終了し、
新・シリーズではポワロは単独で事件解決にあたることになる。
作品の雰囲気も、明るくユーモアに溢れたタッチから、どこか
憂いを含んだ柔らかなタッチに演出も変わっていくことになる。
制作者達の意図ははっきりとはわからないが、ポワロの人間性を
より深く掘り下げようとの意図もあるだろうし、事件に関わる人たちの
内面を描くことでドラマに奥行を持たせようとの意図だったのだろう。
シリアスなポワロに変遷していき、ユーモアたっぷりのポワロの
言動は画面から減少し、面白いポワロのこだわりや、茶目っ気からは
縁遠い演出となってゆく。
長年のファンとしては、レギュラーメンバー達の醸し出す独特の
ユーモアが消えたことに寂しさを感じたのは言うまでもない。
新たなシリーズに期待しよう。
“ポワロはみんな面白い”☆☆☆☆
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